2026年1月時点
内水面(河川、湖、沼、池など海面以外の水面)において、鮎(アユ)、岩魚(イワナ)、山女魚(ヤマメ)、アマゴなどの遊漁(魚釣りなど水産動植物の採捕※)をする際、ほとんどの場合はその内水面の漁業権(一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利)を持つ漁業協同組合から遊漁券を購入する必要があります。
※ 魚を持ち帰らず、キャッチアンドリリース(C&R)をする場合であっても、次のとおり「採捕」にあたると解されており、遊漁券の購入が必要になります。
一般に漁業法規中にいう「採捕」とは、自然に生育する状態にある水産動植物を採取捕獲する行為をいい、その結果として現実にその水産動植物を把握所持することを要しない。
昭和32年1月25日 水産庁漁政部長回答
では、スポーツフィッシングのターゲットとして人気なブラックバス類(オオクチバス、コクチバス)やアメリカナマズ(アメキャ、チャネルキャットフィッシュ)、ブルーギルを釣る場合、遊漁券を買う必要はあるのでしょうか。

漁業権が設定されていない内水面
河川や湖の多くにはその土地の漁業協同組合の漁業権が設定されていますが、溜め池(ためいけ)、野池、沼などには、漁業権が設定されていないことがあります。
どの内水面に漁業権が設定されているかは、各都道府県がインターネット等で公開している内水面共同漁業権免許状況などを見ることで確認できます。
漁業権が設定されていない内水面においては、釣りのターゲットがブラックバス類かアメリカナマズ(アメキャ、チャネルキャットフィッシュ)かブルーギルかどうかにかかわらず、漁業権侵害が問題になることはないため、遊漁券の購入は不要です(そもそも遊漁料を支払うべき相手がいない。)。
ただし、漁業権設定の有無以前の問題として、その場所の管理者(所有者等)によって釣りや立ち入りを禁止されている野池や沼などにおいて、無許可で釣りをしてはならないことは言うまでもありません(軽犯罪法第1条第32号等)。
漁業権が設定されている内水面
上記のとおり、河川(ダム湛水区域を含む。)や湖の多くには漁業権が設定されており、その確認はインターネットなどでできます。
漁業権が設定されている内水面で釣りをする場合には必ず遊漁券を買う必要があるかと言えば、そうではありません。
一定の内水面で漁業を行う免許を受けた漁業協同組合が、当該内水面において、組合員以外の者(一般人)による遊漁に対し何らかの制限をかける場合、あらかじめ遊漁規則を定め、都道府県知事の認可を受ける必要があります(漁業法第170条第1項)。認可を受けていない遊漁規則に効力はありません(同条第8項)。
遊漁を不当に制限したり、不当に高い遊漁料を定める遊漁規則については、都道府県知事は、認可をしなかったり、変更を命じることがあります(同条第5項、第6項)。
つまり、漁協は、あらかじめ都道府県知事の認可を受けた遊漁規則に基づいてのみ遊漁を制限することができるわけであり、漁協の裁量で何でもかんでも遊漁を制限できるわけではないということです。
(遊漁規則)
漁業法
第170条 内水面における第五種共同漁業※の免許を受けた者は、当該漁場の区域においてその組合員(漁業協同組合連合会にあつては、その会員たる漁業協同組合の組合員)以外の者のする水産動植物の採捕(次項及び第5項において「遊漁」という。)について制限をしようとするときは、遊漁規則を定め、都道府県知事の認可を受けなければならない。
2 前項の遊漁規則(以下この条において単に「遊漁規則」という。)には、次に掲げる事項を規定するものとする。
一 遊漁についての制限の範囲
二 遊漁料の額及びその納付の方法
三 遊漁承認証に関する事項
四 遊漁に際し守るべき事項
五 その他農林水産省令で定める事項
3 遊漁規則を変更しようとするときは、都道府県知事の認可を受けなければならない。
4 第1項又は前項の認可の申請があつたときは、都道府県知事は、内水面漁場管理委員会の意見を聴かなければならない。
5 都道府県知事は、遊漁規則の内容が次の各号のいずれにも該当するときは、認可をしなければならない。
一 遊漁を不当に制限するものでないこと。
二 遊漁料の額が当該漁業権に係る水産動植物の増殖及び漁場の管理に要する費用の額に比して妥当なものであること。
6 都道府県知事は、遊漁規則が前項各号のいずれかに該当しなくなつたと認めるときは、内水面漁場管理委員会の意見を聴いて、その変更を命ずることができる。
7 都道府県知事は、第1項又は第3項の認可をしたときは、漁業権者の名称その他の農林水産省令で定める事項を公示しなければならない。
8 遊漁規則は、都道府県知事の認可を受けなければ、その効力を生じない。その変更についても、同様とする。
※ 簡単に言えば、内水面における共同漁業のこと(第168条、第60条第5項第5号)。
では、遊漁規則にはどのようなことが書かれているのでしょうか。
各漁協の遊漁規則はインターネットで確認できる場合が多いのですが、多くの遊漁規則では、鮎(アユ)、岩魚(イワナ)、山女魚(ヤマメ)、アマゴ、サクラマス、虹鱒(ニジマス)、鯉(コイ)、ウグイ、ワカサギ、鮒(フナ)、鯰(ナマズ)、鰻(ウナギ)、鰍(カジカ)、蟹(カニ)、ドジョウ、オイカワ、カワヨシノボリ、鎌柄(カマツカ)、ハヤ(ハエ)、スッポン、手長蝦(テナガエビ)などの遊漁についての制限は定めているものの、ブラックバス類(オオクチバス、コクチバス)、アメリカナマズ(アメキャ、チャネルキャットフィッシュ)、ブルーギルについての制限は定められていません。
というのも、漁協が免許を受けるには、その内水面において水産動植物を増殖することが条件とされますので(漁業法第168条、第169条)、漁協が費用をかけて増殖させている水産動植物であるということが、当該水産動植物にかかる遊漁料の徴収を正当化させる根拠になっていると思われます(第170条第5項第2号参照)。
そうすると、外来生物法によって特定外来生物に指定され、そもそも放流などが禁止されているブラックバス類やアメリカナマズやブルーギルについては、遊漁料徴収を正当化する理由がないことになります。
そのため、多くの遊漁規則では、ブラックバス類やアメリカナマズやブルーギルの遊漁について制限を定めていないのだと思われます。
(内水面における第五種共同漁業の免許)
第168条 内水面における第五種共同漁業(第60条第5項第5号に掲げる第五種共同漁業をいう。次条第1項及び第170条第項において同じ。)は、当該内水面が水産動植物の増殖に適しており、かつ、当該漁業の免許を受けた者が当該内水面において水産動植物の増殖をする場合でなければ、免許してはならない。第169条 都道府県知事は、内水面における第五種共同漁業の免許を受けた者が当該内水面における水産動植物の増殖を怠つていると認めるときは、内水面漁場管理委員会(第171条第1項ただし書の規定により内水面漁場管理委員会を置かない都道府県にあつては、同条第4項ただし書の規定により当該都道府県の知事が指定する海区漁業調整委員会。次条第4項及び第6項において同じ。)の意見を聴いて増殖計画を定め、その者に対し当該計画に従つて水産動植物を増殖すべきことを命ずることができる。
漁業法
2 前項の規定による命令を受けた者がその命令に従わないときは、都道府県知事は、当該漁業権を取り消さなければならない。
3 前項の場合には、第89条第3項から第7項までの規定を準用する。
4 農林水産大臣は、内水面における水産動植物の増殖のため特に必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、第1項の規定による命令をすべきことを指示し、又は当該命令に係る増殖計画を変更すべきことを指示することができる。
まとめると、漁協は、あらかじめ都道府県知事の認可を受けた遊漁規則に基づいてのみ遊漁を制限することができるわけですが、ほとんどの内水面にかかる遊漁規則では、ブラックバス類やアメリカナマズやブルーギルの遊漁は制限されていない、つまり、遊漁券の購入は原則として不要ということになります。
なお、通常、ブラックバス類やブルーギルには禁漁期間も存在しません(各都道府県の漁業調整規則を参照)。
遊漁規則で制限された場所もある
一方、少数であるものの、遊漁規則によってブラックバス類(ラージマウスバス、スモールマウスバス)の遊漁が制限されている内水面があります。
私が知る限りでは、神奈川県の芦ノ湖、山梨県の河口湖、山中湖、西湖です。
これらのエリアの遊漁規則では、ブラックバス類の遊漁についても制限することが明記されていますので、遊漁券がないとバス釣りをすることはできません。
他の魚種を釣る可能性があることを理由とした遊漁料徴収
遊漁規則でブラックバス類の遊漁を制限していない漁協において、漁協職員や漁場監視員は、これらの釣り人に対し、次のように説明することがあります。
ブラックバス類の釣りであっても、漁業権の内容となっている魚種を採捕、混獲する可能性があるので、遊漁券が必要です。
要するに、バス釣りだとしても、その釣りの過程において、遊漁が制限されている魚が釣れる可能性があるので、遊漁券を買う必要があると言っているわけですが、果たして妥当でしょうか。
法的根拠はない
ウェブサイトなどで上記の説明を記載している漁協もありますが、その場合は当該漁協が定めている遊漁規則を確認してみて下さい。
既に述べたとおり、遊漁を制限するには、あらかじめ都道府県知事の認可を受けた遊漁規則に当該制限の記載がなければなりませんので、バス釣りをする際にも遊漁料の支払が必要であると定められた遊漁規則があってはじめて遊漁料の徴収ができるようになります。
そして、ブラックバス類の遊漁を制限する遊漁規則を定めた内水面はごく少数に限られていますので、上記の漁協や漁場監視員の説明は、多くの場合、遊漁規則に基づかない、つまり法的根拠のないものである可能性が高いと言えます。
自己矛盾もしている
また、通常、遊漁規則では、ターゲットとなる魚種によって遊漁券を分け、異なる遊漁料を設定していますが(アユやヤマメなども釣ることができる遊漁券は高額で、雑魚のみを対象とした雑魚釣り券は安価)、他の魚種が釣れる「可能性」があるだけでバス釣りにも遊漁券が必要だと言うのであれば、フナやオイカワなどの雑魚釣りの人でもアユやヤマメが釣れる「可能性」がある(スレがかりもあり得る)として、全魚種対応の遊漁券を買わなければならないはずです。
つまり、ブラックバス類を釣る場合でも他の魚種が釣れる可能性があるため遊漁券が必要だという説明は、漁協自らが設定した魚種に応じて遊漁料を変えるシステムと矛盾が生じてしまいます。
結論:遊漁券購入の要否は場所や釣り方によって判断する
この点について、行政においては、次の通達が存在します。基本的にはこの解釈に従うのが無難だと思います。
漁業権の内容となっていない魚種を採捕するという名目で漁業権の内容となっている魚種を混獲している場合であって、その遊漁行為が漁業権対象魚種の採捕をも含むと客観的に認定し得るときは、遊漁規則に基づいてきめられた遊漁料を納付させることができる。
昭和38年1月30日 水産庁漁政部長通知
整理すると、ブラックバス類など漁業権の内容になっていない魚の釣り人から遊漁料を徴収するためには、次の2つの要件を満たす必要があるということになります。
- ① 漁業権の対象になっている魚種を実際に混獲していること
- ② その遊漁行為(釣り方など)が漁業権対象魚種の採捕を含むと客観的に認定しうること
このように、行政においても、単にブラックバス類以外の魚種を釣る「可能性」があるというだけで遊漁料を徴収できるとは言っていません。ただし、釣り場や釣り方によっては、誤解を招くか、上記要件を満たしてしまうことは十分あり得ます。
例えば、ヤマメやアマゴの釣り人がいるようなエリアにおいて、川虫やミミズを用いた餌釣りや、小型のルアーやワームを使用した釣りを行う場合、漁業権の対象になっている肉食魚もターゲットにしていると見られても仕方がありませんし、実際にもよく釣れてしまうでしょうから(リリースしたとしても採捕に含まれることは既に述べたとおり。)、遊漁券は買うべきだと考えます。
他方、ヤマメやアマゴの釣り人がいないようなエリアにおいて、ビッグベイトなどの大型ルアーを使ったバス釣りを行う場合は、仮にたまたま別の魚がかかってしまうことがあり得たとしても、少なくとも漁業権対象魚種の釣りも行っていると客観的に認定することはできないと思われますので、遊漁料を支払う必要はないと考えます。
アメリカナマズ(アメキャ、チャネルキャットフィッシュ)の釣りについては非常に微妙なところですが、ブルーギルの釣りについては、漁業権の対象となっている魚が生息していないような場所でもない限り、多くの場合漁業権の対象になっている肉食魚と共通の釣り方になりますので、やはり遊漁券は買うのが無難だと思います。
補足:チャビング、カワムツング、ブラウントラウト等
チャビング(小型ルアーを用いる小魚釣り)、カワムツング、ブラウントラウト等の釣りについても、上記と同様に考えることができます。
ターゲットとする魚が漁業権の対象になっている場所では当然遊漁券の購入が必要になりますが、ターゲットとする魚が漁業権の対象になっていない場所であったとしても、これらの釣り多くは、漁業権の対象になっている肉食魚と共通の釣り方になりますので、漁業権の対象となっている魚が生息していないような場所でもない限り、やはり遊漁料は支払うのが無難と考えます。
遊漁料を支払わない場合の罰則等
遊漁料を支払わないでバス釣りをしている場合、現場に見回りに来た漁場監視員よって、通常の遊漁料、又は、付加料金、加算金など通常より増額された遊漁料を請求されることがあります。
漁協は、遊漁料を支払わない釣り人に対し、遊漁規則、漁業権に基づく妨害排除請求権、妨害予防請求権を根拠として、釣りの中止、以後の釣りの拒否、上記の付加料金や加算金の請求、場合によっては損害賠償請求をすることが考えられます。
これに対し、釣り人側が、上記の行政解釈などに照らし、納得がいかないとして漁場監視員の請求に応じない場合、最終的には民事訴訟などの法的手続によって解決することになります。
なお、釣り人による漁業権侵害が認定された場合、上記の民事的な責任が発生する他、次のとおり刑事罰(100万円以下の罰金刑、親告罪)に問われることもあり得ます(漁業法第195条)。
第195条 漁業権又は組合員行使権を侵害したときは、当該違反行為をした者は、100万円以下の罰金に処する。
漁業法
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
