2026年1月時点
この記事では、海面において採捕することが禁止されている水産動植物について、採捕禁止の理由とその法的根拠、違反して密漁した場合の罰則、実際の裁判例について説明します。

特定水産動植物の採捕禁止
鮑(アワビ)、ナマコ、シラスウナギ(13センチメートル以下の鰻)は、採捕が容易で、かつ、高価であることから、特に密漁規制が必要な水産動植物(特定水産動植物)として、法律によって全国一律に採捕が禁止されています(漁業権者等は除く。)(漁業法第132条、漁業法施行規則第41条)。
特定水産動植物を密漁(個人消費目的も含む。)したり、密漁された特定水産動植物であることを知りながら運搬、保管、購入等した場合、3年以下の拘禁刑又は3000万円以下の罰金に処せられます(漁業法第189条)。
(特定水産動植物の採捕の禁止)
第132条 何人も、特定水産動植物(財産上の不正な利益を得る目的で採捕されるおそれが大きい水産動植物であつて当該目的による採捕が当該水産動植物の生育又は漁業の生産活動に深刻な影響をもたらすおそれが大きいものとして農林水産省令で定めるものをいう。次項第4号及び第189条において同じ。)を採捕してはならない。
(以下省略)第189条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は3000万円以下の罰金に処する。
漁業法
一 第132条第1項の規定に違反して特定水産動植物を採捕したとき。
二 前号の犯罪に係る特定水産動植物又はその製品を、情を知つて運搬し、保管し、有償若しくは無償で取得し、又は処分の媒介若しくはあつせんをしたとき。
(特定水産動植物)
漁業法施行規則
第41条 法第132条第1項の農林水産省令で定める水産動植物は、次に掲げるものとする。
一 うなぎの稚魚(全長13センチメートル以下のうなぎをいう。)
二 あわび
三 なまこ
裁判例:高知地裁令和6年3月21日判決
実際に特定水産動植物の密漁が問題となった裁判例を紹介します。
主文
被告人を懲役1年に処する。
未決勾留日数中10日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。理由
(罪となるべき事実)
被告人は、法定の除外事由がないのに、令和5年12月23日午前1時28分頃から同日午前2時11分頃までの間、・・・所在の・・・川河口左岸の高知県海域において、特定水産動植物である全長13センチメートル以下のうなぎ13尾を採捕した。(量刑の理由)
本件は、被告人が、特定水産動植物であるうなぎの稚魚(シラスウナギ)を密漁した漁業法違反の事案である。
シラスウナギの密漁は、成功すれば高額の利益を得る可能性がある一方、これが横行すればうなぎの資源管理に深刻な影響を与えかねないもので、近年、うなぎ等の水産資源の枯渇が国家的な問題となり、シラスウナギ等の密漁に対する罰則を強化する法改正がなされたという経緯を踏まえれば、一般予防の見地に照らし、その密漁に対しては厳しい態度で臨む必要がある。
しかるに、被告人は密漁したシラスウナギを売却して金員を得ようと考えて犯行に及んだもので動機が利欲的である上、事前に密漁に用いる道具を準備するなど態様が周到かつ手慣れていて悪質である。そうすると、被告人の刑事責任は軽視し得ず、本件は懲役刑をもって臨むべき事案である。
一方、被告人については、偶々とはいえ採捕されたシラスウナギが13尾に留まること、事実を認め密漁道具を放棄するなどして反省の気持ちを示していること、兄が情状証人として出廷し監督を誓約していること、前科がないことなど有利な事情も認められる。そこで、以上の事情を総合考慮し、被告人について、主文の懲役刑を定めた上、その執行を猶予するのが相当と判断した。
漁業権対象種の採捕禁止
上記の特定水産物以外にも、漁業権(一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利)が設定されている場所で、漁業権の対象となっている水産動植物を採捕することも禁止されています。
どのエリアでどの水産動植物に漁業権が設定されているかは、各都道府県がインターネット等で公開している海面共同漁業一覧等で確認することができます。
例えば、茨城県北茨城市の大津漁港、磯原海岸、高萩市の高戸小浜海岸などがあるエリアでは、大津漁業協同組合が第1種共同漁業※を営んでおりますが(免許番号 茨共第3号、北茨城市大津町から高萩市高戸に至る地先)、そこでは、イセエビ、ウニ、ナマコ、ホヤ、アワビ、サザエ、カキ、イガイ、ハマグリ、コタマガイ、ウバガイ、ワカメ、アラメ・カジメ、ヒジキ、イワノリ、アオサ、マツモ、フノリ、テングサが漁業権の対象とされています。
※ 藻類、貝類又は農林水産大臣の指定する定着性の水産動物を目的とする漁業(漁業法第60条第5項第1号)。
漁業権の対象になっている水産動植物を密漁(個人消費目的も含む。)すると、漁業権侵害として100万円以下の罰金(親告罪)に処せられます(同法195条)。
第195条 漁業権又は組合員行使権を侵害したときは、当該違反行為をした者は、100万円以下の罰金に処する。
漁業法
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
なお、伊勢海老(イセエビ)、海胆(ウニ)、栄螺(サザエ)、牡蠣(カキ)、蛤(ハマグリ)、若布(ワカメ)などは、多くの場所で漁業権の対象になっています。
裁判例:盛岡地裁平成26年12月19日判決
実際に漁業権の対象になっている水産動植物の密漁が問題となった裁判例を紹介します。
この裁判例では、漁業権侵害の他に、岩手県漁業調整規則違反(採捕禁止期間、サイズ制限等)についても問われました。
なお、当時は、特定水産動植物の採捕禁止制度はなく、漁業権侵害のみが問題となっていましたが、現在では、アワビが漁業権対象になっている場所でアワビを採捕すると、特定水産動植物の採捕禁止違反と漁業権侵害が同時に成立することになります。
主文
被告人Aを懲役1年に、被告人Bを懲役10月に、被告人Cを懲役6月にそれぞれ処する。
被告人らに対し、未決勾留日数中各50日を、それぞれその刑に算入する。理由
(罪となるべき事実)
被告人3名は、共謀の上、いずれも・・・協同組合の組合員ではなく、かつ、漁業権を有せず、法定の除外事由がないのに、別表記載のとおり、岩手県漁業調整規則によって定められたあわびの採捕禁止期間内である平成26年8月21日頃から同月25日頃にかけて、前記組合が有する第一種共同漁業権の区域内である岩手県(以下略)所在のB灯台から真方位約300度、距離約3060メートル付近海域ほか2か所において、殻長9センチメートル以下のあわび947個(重量約84.1044キログラム)を含むあわび合計2066個(総重量約255.1607キログラム)を採捕し、もって採捕禁止期間内に殻長の制限に違反してあわびを採捕するとともに、前記組合の有する漁業権を侵害し、さらに、被告人Aにおいては、岩手県知事の許可を受けないで、あわびをとることを目的とする漁業を営み、被告人B及び被告人Cにおいては、被告人Aが岩手県知事の許可を受けないであわびをとることを目的とする漁業を営むことを容易ならしめ、その犯行を幇助したものである。(量刑の事情)
被告人らは、総重量約255キログラムもの多量のあわびを密漁したものであるところ、直近の取引価格はキロ当たり約9000円であることからしてもその財産的被害は大きく、結果は重大である。とりわけ、岩手県沿岸部は先の震災によって甚大な被害を受け、震災の年はあわびを採捕することすら叶わず、その後も水揚げ高は思うように伸びず、組合全体があわび資源の確保等に努め、震災前の水準に戻そうと奮起している中、漁業関係者の努力の結晶でもある貴重なあわびをいとも簡単に取れるだけ奪い取るという態様は許し難い。被告人らは、・・・に居住していながら、あわび密漁の拠点とするために岩手県内で借家し、行動を怪しまれないように被告人Aの住民票を岩手県内に移して岩手ナンバーの車を手に入れた上で、潜水してあわびを採捕する者、ゴムボートを操船舵しながら見張りをする者、陸上で見張りをする者といった役割分担を定めて、緊密に連絡を取り合いながら敢行したもので、本件は計画的かつ組織的犯行である。
被告人Aは、あわび密漁のための事前準備を行い、共犯者らをあわびの密漁に誘い込んでいる上、買受業者と連絡を取り、密漁をする日を決めて仲間を集め、自ら海に潜ってあわびを採捕し、あわびの密漁に関する金の管理をしていたのであるから、本件において主導的役割を果たしたと評価でき、その責任は重い。
被告人Bは、密漁においては操船し見張りを行うなど重要な役割をしている上、服役前科を含む同種前科5犯があり、直近では平成20年に岩手県漁業調整規則違反、漁業法違反の罪により懲役刑及び罰金刑に処せられたのに、また本件犯行に及んでいるのであるから、この種事犯に対する規範意識は深刻なまでに低下している。
また、被告人Cは、被告人A及びBが密漁している間、漁港内での見張りを行うとともに、採捕したあわびを移すかごを準備し、保管のためにあわびの入ったかごを海中に沈めたりしていたのであるから、やはり密漁には不可欠な役割を担っており、その責任を軽視することはできない。
他方、被告人3名はいずれも事実を認めて反省の態度を示し、被告人Cについては前科がなく、その内妻が監督を約束する書面を提出していること、被告人Aについては、その内妻が監督を誓い、被告人Bについてはその知人が社会復帰後の雇用を約束していることなど、酌むことのできる事情があるが、それらを十分に考慮しても、それぞれ判示のとおり懲役刑の実刑に処するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
誤って採捕してしまった場合
以上の密漁規制は、いずれも故意があってはじめて犯罪が成立します。
したがって、間違えてうっかり特定水産動植物や漁業権対象種を採捕してしまった場合でも、その場で速やかにリリース(放流)すれば、罪に問われることはないと考えます。

